ロングCOVIDが急性期の重症度と相関しない理由
ロングCOVIDの症状の重さが急性期の重症度と一致しない理由は、SARS-CoV-2が感染初期に細胞に及ぼす即時の影響に起因している可能性があります。ウイルスによる初期のミトコンドリア機能障害は、急性期の症状とは独立して、長期的な影響を及ぼすことが示唆されています。
NSP9がもたらすDRP1の過剰活性化
SARS-CoV-2のNSP9というウイルス性タンパク質が、感染からわずか2時間以内に細胞内で重大な変化を引き起こすことが分かっています(Calu-3細胞環境での実験結果)。
NSP9とDRP1の関係
NSP9はDNM1L遺伝子(DRP1をコード)をアップレギュレーションし、Ser616部位でのDRP1のリン酸化を増加させます。
DRP1とは?
Dynamin-related protein 1 (DRP1) は、ミトコンドリア分裂(fission)を制御する重要なタンパク質です。
通常、DRP1は損傷したミトコンドリアを選別するために働きますが、過剰活性化されると正常なミトコンドリアまで不必要に分裂させ、以下の問題を引き起こします:
ミトコンドリアネットワークの統合性の喪失
ATP生成能力の大幅な低下
NSP9とNSP7の連携
NSP9はNSP7と協力し、DRP1の過剰活性化をさらに促進します。この影響は、感染初期の細胞にとって致命的な打撃となります。
NSP9とPOLGの関与:さらなるミトコンドリア損傷の鍵
POLGとは?
POLG (Mitochondrial DNA Polymerase Gamma) は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の複製と修復を担う唯一のポリメラーゼであり、mtDNAの安定性を維持する上で不可欠な役割を果たします。
NSP9とNSP8の連携
NSP9はNSP8とともに、POLGと相互作用または競合する可能性があります。
POLGの阻害: NSP9がPOLGのDNA結合部位に干渉することで、mtDNAの複製や修復を阻害します。
自己免疫の可能性: NSP9やNSP8の模倣効果が、POLGを標的とする自己免疫反応を誘発する可能性があります。
NSP9の意外な役割:「補助タンパク質」の黒馬
これまでNSP9は、NSP10(RNAの校正とキャッピングをサポートするタンパク質)の「補助タンパク質」として考えられてきました。しかし、実際にはミトコンドリア機能障害を引き起こす隠れた重要因子であることが判明しました。
複合体I(Complex I)の機能低下も同時発生
感染後わずか2時間以内に、電子伝達系(ETC)の複合体Iの機能低下が観察されています。
影響:
ATP生成が阻害されるだけでなく、**ROS(活性酸素種)**の増加が誘発され、さらなるミトコンドリア損傷を引き起こします。
ミトコンドリア機能障害のシナジー効果:分裂とエネルギー危機
DRP1の過剰活性化と複合体Iの機能低下が相互に作用し、ミトコンドリア機能障害を悪化させます。
ROSの増幅: 複合体Iの機能低下がROSを増加させ、DRP1をさらに活性化。
ミトコンドリア断片化: DRP1の過剰活性化により、ミトコンドリアが過剰に分裂し、ネットワークの統合性が崩壊。
ATP生成の低下: 断片化したミトコンドリアではATP生成効率が大幅に低下します。
COVID-19は「感染性ミトコンドリア病」かもしれない
さらなる研究が必要ですが、これらの知見を総合すると、COVID-19の本質は単なる呼吸器疾患ではなく、感染性ミトコンドリア病と言えるかもしれません。ウイルスのタンパク質がミトコンドリア機能を直接的に妨害し、その影響が長期にわたって持続することが明らかになっています。
今後の展望
DRP1の阻害: DRP1の過剰活性化を抑制する治療法(例:Mdivi-1)の検討。
mtDNAの安定化: POLGの機能を保護し、mtDNAの安定性を維持するためのアプローチ。
新たな治療戦略: SARS-CoV-2によるミトコンドリア病理の解明を通じて、COVID-19およびロングCOVIDの革新的治療法を開発する。
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