今週はルーマニアではイースターで始まったので一日短かったですが、世界で起こったコロナウイルス関連ニュースをまとめていきたいと思います。
長期障害
コロナウイルスが、様々な経路で感染者の脳にダメージを与え、その結果長期障害を生じさせているということを示す研究が連続して発表されています。世界の長期障害の研究の中心が、血栓や骨格筋を対象にしたものから脳を対象にしたものに集約されてきている気がします。
・コロナウイルス、そしてスパイクプロテインが、脳との接続部を経由して頭蓋骨の骨髄の中に蓄積していることが研究で示されました。[リンク]
解説;この研究は2週間前に投稿しましたが、図が示されていたので再掲しました。マウスモデルと人間の死後解剖の結果わかったことで、ウイルス粒子やスパイクプロテインが頭蓋骨髄や脳髄膜で蓄積されていることが直接発見されました。スパイクプロテインに触れた脳細胞が細胞死を起こすことも確認され、このことが認知機能障害を起こしている一因になっている可能性が示唆されています。
・長期障害が、体を起こせないような強い倦怠感を引き起こすことがあるのは知られていますが、こういった症状を経験している患者の脳では、一次運動野の反応が有意に弱まっていることが研究で明らかになりました。[リンク]
解説;一次運動野では、それぞれの細胞が体の別々の部位に対応しており、まさにその人の体を転写した地図のようになっています。長期障害を起こした患者の脳では、この部位の反応性が有意に弱まっていることが確認された格好です。骨格筋やエネルギー代謝の問題のほかに、筋肉のスイッチを入れる脳の部位の反応が弱まっていることがわかりました。
・イスラエルの調査では、コロナウイルスに感染した人の約半数が記憶障害、認知機能障害、倦怠感、筋肉痛などの長期障害を負っていることがわかりました。[リンク]
解説;アメリカのCDCは長期障害の発生率は20~25%としています。しかし、カウント方法には様々な定義があり、医療機関に診察に行ったことがある、被雇用者保険で認定されている、などの様々な条件を組み合わせることで長期障害率は法律上低くなります。今回のイスラエルの調査では、長期障害率が50%という可能性が提示されました。
・コロナウイルス感染で嗅覚を失うことがあるのは有名ですが、そのまま治らないケースも報告されています。こういった患者の脳では、眼窩前頭皮質の前頭前皮質を繋ぐ部位の活動が低下しており、嗅覚に関する情報の伝達に齟齬が生じていることがMRIを使った分析でわかりました。[リンク]
解説;嗅覚の喪失も、鼻詰まりや精神的なものではなく、やはり脳に生じた異常が引き起こしているものであることがわかりました。
・去年の夏に流行したBA.5というオミクロンの変異株は、初代オミクロンよりも神経病原性を高めており、マウスモデルを使った実験ではむしろ神経細胞自体が感染の標的になっていることが研究で示されました。[リンク]
解説;オミクロンが出現したあと、デンマークの精神科の入院数が急激に膨れ上がっており、オミクロンは標的を呼吸器から脳に移したのではないかと思った記憶があります。そのあとの変異株ではさらにその傾向を強めていたということがこの研究で明らかになったわけですが、これだけ長期障害と脳障害の関連が証明されている現在、「強毒性」の定義に脳神経細胞への毒性ももっと含めるべきだと思います。
再来、そしてアークトゥルス
インドとその周辺国で感染数を劇的に増やしているアークトゥルス株ことXBB.1.16の拡大が続いています。東大の研究では遅かれ早かれ世界に広がると予測されています。日本も含めた東アジア諸国でも感染数の再増加が報告されており、ウイルスの遺伝子解析をもっと急ぐべきだと思います。
・インドのデリーでは、3月末からのわずか3週間足らずでコロナウイルス感染数が430%以上増加しました。[リンク]
解説;デルタが蹂躙したあと、インドはコロナウイルス感染に関する”過剰報道の防止”に大きく力を入れているほか、症状があっても検査を避ける人がほとんどになっているということが分かっています。インドでは大きな感染数の増加が見られていますが、実際はこれを遥かに超える規模になっていると考えるべきでしょう。
・シンガポールでもわずか一ヶ月で一日の感染数が約1400件から4000件に急増しています。そのうちの30%が再感染で、再感染率が去年よりも高まっています。[リンク]
・スペインでも感染数が急増しています。特にイースターの週のあと、スペインのコロナウイルス感染数は約2.5倍に膨れ上がりました。専門家は新たな変異株の出現を危惧するにとどまり、アークトゥルスによるものかは明らかになっていません。[リンク]
・日本でも感染者が再び増加しています。厚生労働省に助言する専門家組織らは第9波が起こり、第8波よりも大規模になる可能性があることを警告しています。[リンク]
・アークトゥルスことXBB.1.16は、子供の感染者の目に結膜炎のようなかゆみや粘着性の炎症を引き起こすことがわかってきたと報道されました。[リンク]
解説;子供の結膜炎は要注意の対象として認識しておいた方が良さそうです。目をかいた手でその辺を触ることでさらに感染が拡大するおそれもあります。周知する必要がありそうです。
その他
・住宅内の環境では、コロナウイルスは空気感染の他に感染者の手や家の中の表面に付着。そこを感染経路にしていることがわかったと報じられました。[リンク]
・VAボストンヘルスケアシステムを対象にした調査では、医療従事者の約半数がコロナウイルスに有症状感染していても勤務を続けていたことがわかりました。また、症状の種類による差はありませんでした。[リンク]
解説;医療者は医療逼迫でとても病欠を許される状態ではなかったのだと推察しますが、病院が感染のハブになっているという現状も浮き彫りになりました。
・イギリスを例にシミュレーションした結果、海外からの渡航者の10~50%をサンプリング調査するだけで、市中での検査よりも約1ヶ月かそれ以上早く新規変異株を特定できることがわかりました。[リンク]
今週は、頭蓋骨の骨髄の中にコロナウイルスやスパイクプロテインが蓄積するという研究の具体的な図が個人的には最もインパクトがありましたが、医療者の約半数がコロナウイルスに有症状感染していても勤務しているという実態も衝撃的でした。しかもこれは有症状感染だけなので、無症状感染の医療者も含めるとさらに割合は膨らみます。
2020年の段階の当社の分析では、人口あたりの医療者が多い国ほど感染者が多いということがわかっていました。これはGDPの高い国ほど検査を行っていることによるという可能性もあるため、院内感染にはあまり焦点を当てた情報発信してきませんでしたが、個人的にはその可能性も十分に鑑み、怪我や事故も含めて絶対に病院に行くはめにならないよう細心の注意を払い続けていました。医療負荷を加えないためにも、今後とも注意を怠らないようにしたいと思います。
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