当社はこれまで、無自覚低酸素症、死なない異常ミクログリアなど、コロナウイルス長期障害に伴う免疫不全や認知機能障害が起こるメカニズムについて分析してきました。今回は、これまでに触れたことのなかった「ドーパミン」がこの長期障害に及ぼす影響とその仕組について簡単に書いていきます。これは現在進行中の分析の内容とも重なります。
ドーパミンは一般的にワクワク感ややる気を起こす神経伝達物質ですが、過剰に放出されると不安感の増大や様々な精神疾患を引き起こす一方、不足すると体を動かしにくくなり、パーキンソン病などを引き起こします。コロナウイルスは少なくとも二つの経路でこのドーパミンの不足を誘発します。
一つは以前のブログ記事でも書いた、ACE2の優先的な増加作用によるものです。ドーパミンを生成するDDCという酵素の遺伝子は、通常極めて緊密にACE2の遺伝子と連携しており、共発現しています。しかし、コロナウイルスに感染した細胞ではACE2遺伝子の活動が異常に促進される一方、このDDCの酵素の生産が有意に抑制されます。これはおそらく、前回のブログ記事に示した通り、ウイルスが細胞にACE2を集中的に生産させるために犠牲にされているのが原因と思われます。これによって、感染者の体内ではドーパミンの生成が抑制されます。
もう一つの経路はエストロゲンの減少に関連するものです。コロナウイルス長期障害による免疫不全の原因の一つにエストロゲンレベルの低下があるということは、去年の「免疫再建」のレポートで紹介しました。このレポート配信から半年後、長期障害患者の体内ではエストロゲンの生成が滞っているという研究が発表されました。エストロゲンはコロナウイルス感染の急性症状から女性を守る一方、減少する影響が大きく出るために女性の方に長期障害が多いのだと推測されます。ただし、エストロゲンには乳がんなどを引き起こす作用もあるため、急激に再増加させることはリスクを伴います。当社は、コロナウイルス感染によるGnRHニューロンの炎症がエストロゲン低下を招いていると分析しています。そして、これがHOXB9遺伝子の活性化を招き、これがFOXA2という遺伝子の活動を抑制します。FOXA2遺伝子はドーパミンニューロンの維持に活躍しており、エストロゲンの低下がドミノ倒しのようにドーパミンニューロンの働きを弱めることになります。ドーパミンニューロンは枝を長く伸ばし、その活動を維持するために多くのエネルギーを必要とします。そのため、神経変性に弱く、失うとパーキンソン病を発症します。
コロナウイルス長期障害を負った患者が、体をうまく起こせない、歩き方を忘れてしまう、体に力が入らない、などの症状を訴えることが多いのは、このドーパミン欠乏が原因の一つであると当社は分析します。またさらに、ドーパミンはマクロファージやT細胞、B細胞などの骨髄に存在する多くの免疫細胞を管理しています。これらの細胞は骨髄全体に分布しています。これらはこの領域に浸透する毛細管網を循環しており、全てドーパミンに応答します。したがって、骨髄に存在するドーパミンは、この部位に存在する成熟免疫細胞に作用することによって、免疫細胞前駆体の発達に直接影響を与えるだけでなく、造血や補助機能にも間接的に影響を与える可能性があります。ここまでに説明したコロナウイルスのエピジェネティック操作は、仮にウイルスが除去されたとしても宿主の遺伝子に設定として残ります。こうしてドーパミンの減少が続いた状態で、T細胞を始めとする免疫細胞の活動が抑制を受け、結果として長期障害に伴う免疫不全の原因の一つになっている可能性が極めて高いと当社は分析しています。
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